Silent snow

*冬の日の圭一と魅音。両片思い。


十二月に入り、季節はすっかり冬。
豪雪地帯だけあって、辺り一面真っ白な景色は、正に雛見沢の冬景色と言った所だろうか。
そんな真っ白な雪の帰り道を、圭ちゃんと二人で歩いていた時のこと。
そういえばさ、と徐に圭ちゃんが切り出した。

「知ってるか?雪って、音を吸収するんだぜ」
「え?」
「雪の日って、いつもより静かな気がするだろ?あれって、雪が音…もっと言うと音が出る振動を吸収しているからなんだ」
「へえー。圭ちゃんって、たまに変なことを知ってるよね」
「なっ、変とは何だ変とは!そこは博識だと言ってくれ!」
「あはは、圭ちゃんには似合わない言葉だね~」
いつもの調子で茶化しちゃったけど、ちゃんとわかっている。
圭ちゃんは勉強もよくできるし頭が良い。私が知らないことも知ってることも結構多い。
全然進まなかった受験勉強だって、夏休みに入ってから圭ちゃんにみっちり教えてもらったお陰で、だいぶ捗っているのも事実だ。
そして勉強をしている時の圭ちゃんの横顔は、何だかいつもよりもカッコ良く見えて見惚れたりしちゃって…。

「魅音?ちょっと顔赤いぞ?まさか風邪じゃ…」
「なっ、そんなわけないじゃん!おじさんの健康優良児っぷりを舐めてもらっちゃいけないよ~?」
圭ちゃんのこと考えてたなんて言えるわけがない。
慌てて腕を振って元気なことをアピールすると、圭ちゃんも納得してくれたみたいで、ほっと胸を撫でおろした。
「…なら良いけどさ。あと少しで受験本番なんだからな?ここで体調を崩すと、今までの頑張りが全部パアなんだぞ?」
「わかってるって!もーっ、圭ちゃんは心配性だな~」

話題を変えるべく、そういえば、とさっきの圭ちゃんの話で思ったことを聞いてみた。
「私たちの声も、雪に吸収されたりするわけ?」
「ん?それはどうだろうなぁ。現に俺たち普通に会話できてるし」
「じゃあ、ちょっと距離があったらどう?」
「距離の問題じゃない気がするけどな」
「まあまあ、やってみないとわからないじゃん」
そう言って、圭ちゃんから2メートルくらい先へと駆ける。
「圭ちゃん聞こえる?」って聞こうとして、それはそのまんま過ぎてつまらないな、と思い直す。

うーん、何を言ってみよう。
でも、もし聞こえないんだとしたら、普段言えないことを言ってみても良いかもしれない。
普段言えないこと、か。
………。
気が付くと、私は頭の中で思い付いた言葉をそのまま口に出していた。


「       」


「…ん?魅音、今何て言ったんだ?」
聞きながら、圭ちゃんが私の方へと歩いて来た。
「………聞こえなかった?」
「…ああ。何か言ったのはわかったけど、よく聞こえなかった」
圭ちゃんの答えに、少しだけ安堵する。
「あはは、圭ちゃんの言った通りだったね。吸収されちゃうんだ」
「魅音…お前、俺の言うこと信じてなかっただろ」
「いや~、そういうわけじゃないんだけどさ。半信半疑?」
「半分信じてないってことじゃねーか!っていうか、さっき何て言ったんだよ?」
「……」
「……魅音?」
「あ、あはははははーー」
「あっ!おい、逃げるなこらっ!」
雪道をさくさくと駆けながら逃げる私を、圭ちゃんが追いかける。
でも、雪道に慣れていない圭ちゃんは、私に追いつくことはできなくて。そうわかっていながら、私はスピードを緩めることはできなかった。
…だって今、自分でもわかるくらい真っ赤な顔を、圭ちゃんに見られるわけにはいかないから。

******

俺よりも少し先を走る魅音を追いかける。
しかし、経験値の差か、この降り積もった雪の中をあいつに追い付くことができなくて。
かと言って、ここで諦める俺じゃない。
転ばないように注意を払いながら、早く早くと足を進める。


『好きだよ』


さっき、静寂の中で小さく聞こえたあの言葉。
もしかすると、聞き間違い…いや、絶対聞き間違いだと思うけど。だとしても、もう一度魅音の口から聞き直さないとやっぱり気が済まない。
(くそっ、絶対に追いついてやる!)
聞き間違いだとしたら、やっぱりそうかと笑えば良い。
でも、もしそうじゃなかったら―――。
いつの間にか降り始めた雪が頬にあたる。
その冷たさに、自分の顔が熱いことを嫌でも自覚させられた。


inserted by FC2 system